ハチミツの価格改定をめぐる動き

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民間の信用調査会社「帝国データバンク」が食品主要メーカー105社を対象に行った調査によると、2022年に値上げされる食品が1万品目を超えることがわかりました。このうち約6割にあたる6285品目が6月までに、すでに値上げまたは値上げを予定しているとし、7月以降も値上げが続いて、特に8月は月別としては最多となる1600以上の品目が値上げされる予定だといいます。この食品の値上げに伴い、はちみつ製品を扱う企業も価格改定に向けて動き出しているとのニュースを目にしました。

木のスプーンとはちみつの写真

今回の値上げの背景は他の食品と同様に、原料、物流、包材などのコスト高が影響しています。実は、国内流通するはちみつ製品の90%が輸入原料に頼っており、主要生産国それぞれで状況は異なるものの、異常気象による減作や、コロナ禍において需給バランスが世界的に乱れたことも影響して高騰しているといいます。さらに、年初からの円安ドル高の為替変動も加わり、はちみつ製品を扱う大手は限界を超えてしまったことから、生産国別で異なるものの、20〜40%の値上げは避けられない状況だといいます。国内のはちみつ市場は、安定価格、安定供給できる中国産によって発展してきた経緯がありますが、ここ十年はスーパーマーケットの売り場を見てもわかるように世界の様々な産地のはちみつが取り扱われるようになり、中でもアルゼンチン、カナダ、ハンガリー、メキシコ、ミャンマー、ベトナムからの輸入が増加していました。

国内では、コロナ禍の巣ごもり需要で一時期は約3%市場規模が拡大しましたが、需要の高まりは海外の方がより顕著のようです。新型コロナウイルスの感染拡大による健康志向の高まりから、米国、欧州などで需要増加が続いている一方で、2021年はカナダでの大雨が影響して大減産となり、ハンガリーをはじめとする東欧産は3年連続で不作が続いているために、世界的にもはちみつの価格が上がっています。日本での市場規模や需要は海外と比較するとまだ低い方ですが、健康や美容に良い天然のはちみつの素晴らしさをお伝えしている立場からすると、何とも頭の痛い価格改定になりそうです。

ミツバチ大活躍の季節到来

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野菜や花の苗を見かけるようになり、家庭菜園やベランダ栽培を楽しめる季節になりました。果実を付ける木々もたくさんの花を咲かせ、その香りに誘われるように、ミツバチや蝶たちが忙しそうに飛び回っています。これらの「ポリネーター(花粉媒介者)」と呼ばれる動物や昆虫は、野菜や果物の受粉には欠かせない存在です。中でもハチは最も優れたポリネーターといわれ、一つのコロニーに2万から8万匹のハチがいて数キロ先の花を目指して飛んでいくだけでなく、利用する花の種類がとても多く、ほとんどの作物の受粉を助けることができます。ミツバチに必要な花蜜と花粉を花から集めると同時に、花粉の媒介をすることで植物の再生産を助ける、とても賢く、そしてかけがえのない存在なのです。

花とミツバチ

そんな世界中のミツバチたちは、気候変動や農薬の使用など、人間の活動によって危機にさらされています。世界中のあらゆる場所で個体数が明らかに減ってきているのです。ほとんどの植物は動物や昆虫による受粉に依存していて、世界の主要な作物種の90%以上が受粉をミツバチに頼っています。野菜や果物だけではありません。家畜はミツバチの受粉に頼った餌を食べていますし、衣類に使われているコットンもミツバチの存在は不可欠です。ミツバチを失うことは、年間最大5770億ドル(約60兆円)の農作物が、受粉損失リスクにさらされているともいえ、ミツバチが私たち人間の生活や健康を支えているといっても過言ではありません。

私たちが日常生活でミツバチにできることは限られているかもしれません。しかし、日々食べられるものがミツバチたちの助けによって生産されたものだということを少しでも意識することが、ミツバチの未来を救うことにも繋がってくるのかもしれません。

アピセラピーを知っていますか?

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ミツバチ産品

「アピセラピー」という言葉を聞いたことがありますか?
アピ( Api)とは、ラテン語でミツバチのことを意味し、「アピセラピー」とは、ハチミツやプロポリス、ローヤルゼリーなどのミツバチ産品を使った自然療法のことを指します。クレオパトラの時代から人間はミツバチ産品を取り入れてきましたが、アピセラピーについても、古くからヨーロッパで研究が進められてきました。ただ、一言でアピセラピーといっても、文化によってその言葉が指す実態も異なるようです。たとえば、日本でアピセラピーといえばプロポリスが広く受け入れられている一方で、フランスでは、ハチミツを主に利用した傷の治療がアピセラピーの中心で、外科手術の傷跡の回復にハチミツが有効であると証明する研究が大学レベルで盛んに行われています。傷の治療薬としても認可され、大学病院で医薬として使用されています。アメリカで「アピセラピスト」と言う時には、蜂毒を使って施術を行う人のことを指すということで、ミツバチ産品を使うといっても、地域や文化によりアプローチは様々です。

アピセラピーで使用されるミツバチ産品
・ハチミツ
・ローヤルゼリー
・プロポリス
・花粉
・ミツロウ
・蜂の子
・蜂毒…

アピセラピーではあらゆるミツバチの生産物が使われています。殺菌作用、抗菌作用に優れ、免疫力を高める効果があると言われているハチミツをはじめ、ミツバチの巣に使われている樹枝状の物質から抽出するプロポリスも取り入れられています。プロポリスをベースとした調合物は、太古より天然の抗生物質としても使用されてきました。蜂の子は、その名前の通り、蜂の幼虫や蛹ですが、ミツバチ由来の健康食品の一つとして世界中で取り入れられています。日本でも郷土料理として親しまれている地域がありますよね。ミツバチが針に持っている毒の成分も、ヒトの免疫力を引き出してくれるとして治療に用いられ、この療法は世界中で4000年もの歴史があります。私たちの健やかな生活は、ミツバチがもたらしてくれる自然の恩恵に支えられていることを、アピセラピーを通じてあらためて実感しました。

参照:Roch Domerego「アピセラピーとその科学的根拠」
(ミツバチ科学21(2)75ー80 Honeybee Science 、2000年)

日本の蜜源事情

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日本人のハチミツの消費量は近年増加傾向にありますが、実は国内で消費されているハチミツのほとんどは輸入品で、国内産のハチミツは全体の消費量に対して6%程度です。この割合は年々減少傾向にありますが、なぜ日本で採れる量が少なくなっているのでしょうか。
原因の一つとして、養蜂家の高齢化や後継者不足問題があるといわれていますが、それだけではありません。今、日本中でハチミツの原料となる大切な蜜源が少なくなっていることを挙げる専門家もいます。これは農林水産省によるデータ(*)でも明らかで、2012年と2019年を比較した時にレンゲの蜜源面積は1/3まで減少、すべての蜜源を合わせた全体面積も、約70%程度まで減ってしまっていることがわかります。

ミツバチの巣箱

なぜ蜜源が減っているのか
世界には約4000種の蜜・花粉源植物があり、日本では6 0 0 種類以上の蜜源植物が確認されています。ミカンやリンゴ、クローバー、アカシア、レンゲ、ソバ、サクラなどは身近な植物ですし、ハチミツが販売されているのを見かけたことがあるかもしれません。
蜜源が減っている原因としては、農業が衰退し、開発などが進むことで農地が減っていることが挙げられます。これにより、大きな蜜源であるレンゲやクローバーの栽培が減ってしまいました。また、レンゲの花を外来害虫が食い荒らしてしまうという問題も起きています。品質改良により、蜜や花粉の量が減らされた品種が栽培されていることも影響しています。
また、私たちも変化を感じている異常気象がミツバチに与える影響も重大です。花の季節に雨が多く、ミツバチが蜜を集められなかったり、温暖化の影響でミツバチが飛び回る前に花が咲いてしまったりすることで、蜜を集められるタイミングも変化しています。

身近なところからミツバチに蜜源を
ヨーロッパでは、ミツバチたちに蜜源を提供する取り組みとして街や庭に積極的に蜜源植物を増やしたりする地域があるそうです。夏に向けて家庭菜園を始めている方も多いと思いますが、実はこれもミツバチにとっては大切な蜜源になります。定期的に続けていたら、ミツバチを見かける日も近いかもしれません。

*参考データ:農林水産省「養蜂をめぐる情勢」(令和2年11月)

自動車業界で進む
ミツバチを通じた環境貢献

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なぜ自動車を製造する企業が養蜂を?
ポルシェにベントレー、ランボルギーニにロールス・ロイスと、近年、自動車業界が取り組む養蜂プロジェクトが話題になっています。自動車を製造する企業がなぜ養蜂に取り組んでいるのでしょうか?国の自動車メーカーであるベントレー・モータースは、2019年5月、本拠地である英国・クルーにて12万匹のミツバチと共に「フライングビー(FlyingBees:空飛ぶハチたち)」を開始し、同年9月には、たった2つの巣箱から100瓶以上のハチミツの収穫に成功しました。ベントレーの製造部門担当役員は次のようにコメントしています。
「地域の生物多様性保全に貢献することを目指して、工場の広大な敷地内に巣箱を設置しました。このエリアにはミツバチたちが好む花が数多く植えられているため、養蜂に適しているということもわかりました。小さな一歩を踏み出すことが地域の生物多様性保全につながっています。」

巣箱とミツバチ

ベントレーは、常に環境への負荷を改善する方法を模索していますが、養蜂はその解決法の一つとして、新たな取組みとして取り入れられています。
ロールス・ロイス・モーター・カーズもまた、自然保護活動家、動物・植物学者、栽培者、養蜂家とともに協力し、「ロールス・ロイス養蜂プロジェクト」を展開しています。2017年に設立された養蜂場には6つの巣箱が設置され、約25万匹のミツバチが飛び回り、約400kgのハチミツが収穫されました。ロールス・ロイスも同様に、環境負荷をかける産業に関わる一企業として、英国内でも個体数の減少が問題となっているミツバチを守るとともに、自然環境を守る活動として養蜂プロジェクトに取り組んでいます。

人間の生活は、ミツバチに支えられている
ミツバチは、花の蜜を集めるだけではなく、私たちの毎日の食事に欠かせない野菜や果物などの受粉も行っています。その割合は、世界の野生種子植物の約90%、そして世界の食用作物の75%以上ともいわれ、ミツバチたちがいなくなってしまったら、私たちの生活はこれまでのものとは大きく異なるでしょう。しかし、ミツバチの減少は世界的に問題となっており、人間がこのまま環境に負荷をかけ続けていると、朝のコーヒーやフルーツを楽しむこともできなくなるかもしれません。自然の恵みに感謝して、ミツバチや環境のためにできることを少しずつでも意識していきたいですね。