一言で伝えきれない5-ALAの魅力
医療分野での応用が広がる5-ALA

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がんの診断薬としても注目されている5-ALA
がんの治療法の一つに光線力学療法(photodynamictherapy:以下PDT)という治療法があります。これは、がん細胞のところに集まる性質を持っている成分(主に蛍光物質)を投与して、その部分に光を当てて、がん細胞を死滅させるという治療法です。正常な細胞への影響が少なく、体への負担が軽い治療法として知られています。この治療法は光を当てると、がん細胞の部分だけが光るという特徴があるのですが、その光っている部分だけを切除していく光線力学診断(PDD:Photodynamicdiagnosis)という診断があります。
現在は、光線力学療法では蛍光物質としてレザフィリンという薬剤が主流ですが、近年5-ALAを用いた光線力学診断も実施されるようになってきました。5-ALA(5-アミノレブリン酸)は体内に取り込まれると、正常な細胞では、ヘムという物質に代謝されていきます。しかし、がんの場合、5-ALAががん細胞に過剰に集まり、蛍光物質(PPⅨ)に変わるという現象がおきます。 

5-ALAを取り込んだ際の、正常細胞とガン細胞での代謝の違い

この蛍光物質に青い光と当てると、がん細胞の部分だけが赤く光るため、正常な細胞との区別がつきやすくなり、小さながん細胞の見落としが軽減されます。人の目では認識できないがん細胞が可視化できることで、より正確に摘出することができるのです。

膀胱がん手術画像(光線力学診断

すでに悪性神経膠腫(しんけいこうしゅ)や膀胱がんの手術時に使用する診断薬として保険適用となっています。また、胃がんの腹膜播種(ふくまくはしゅ)に対しても薬事承認に向けた取り組みが実施されています。元々5-ALAは、動植物の体内に含まれている天然のアミノ酸ですので、人体に負担を与えず安全性がとても高い成分であることから診断薬として注目されてきました。

2017年4月に、特殊な光源を用いた医療に関する診療や研究、教育を行う日本初の本格的な「光線医療センター」が高知大学医学部附属病院に設立されました。このセンターでも5-ALAと光を用いた脳腫瘍、皮膚表皮内がん、膀胱がん、前立腺がんにおける研究、開発が行われています。5-ALAを使った光線力学治療は、多くのがんに応用できる汎用性の高い最新医療技術であることから、がんに悩む数多くの患者さんにとって大きな福音をもたらすことが期待されています。

進化の過程で生命を支えてきたアミノ酸 ALA

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地球が誕生した時、酸素はなかった!?
私たちの祖先は、はるか大昔、酸素が嫌いな生命体と酸素が好きな生命体が、融合し進化してきたといわれています。酸素が嫌いな生命体?ということは「呼吸ができない」というように思いがちですが、実は地球が誕生した約46億年ほど前の地球には、酸素はほとんど存在しておらず、大気のほとんどは二酸化炭素でした。
地球上に生命が誕生したのは約38億年前。この頃、陸上では火山活動が活発で、生命が生存するには厳しい環境です。そんな中、最初の生命が誕生したのは海の中でした。生物の原料となるアミノ酸や糖などの有機物が、様々な気象現象や隕石によって原核生物が誕生しました。これらの原核細胞は、酸素を使わずに海中の有機物を取り入れて生息していました。その後、地球上ではじめて光合成を行うラン藻植物(シアノバクテリア)が登場し、地球上に酸素が放出されるようになってきました。
このシアノバクテリアは、細胞の中に核を持たない原核生物で、植物の祖先にあたります。生命進化の最も初期に出現し、十億年間も酸素を発生し続けたおかげで、大気に酸素が存在するようになりました。現在でもこのシアノバクテリアの仲間は、池や沼、海に多く存在しています。

昔の地球

細胞の進化に関わるミトコンドリア
その後、原始生物にとって猛齊だった酸素を、進化の過程で細胞の中に酸素を利用してエネルギーに変えることのできるミトコンドリアと、核を取り込み生きられる生物「真核細胞生物」が誕生しました。ミトコンドリアが細胞の中で共生できるようになってはじめて、大型化・複雑化が可能となりました。このような現象が起きなければ、人間はもとより、他の知的生命や多細胞生物も存在していなかっただろうといわれています。酸素のなかった遥か昔から地球には生物が存在し、酸素が増えてきた地球の環境に細胞と核、ミトコンドリアが融合し、細菌、植物、脊椎動物、魚類、爬虫類、哺乳類へと進化してきました。とてつもない長い時を経て、私たちは形作られてきましたが、人間や動物に限らず植物の細胞の中には、必ずミトコンドリアという小器官が存在しています。このミトコンドリアこそが、酸素を利用して糖分や脂肪を原料に私たちが動くためのエネルギーを生み出しているのです。

ミトコンドリアの機能を高めるALA
このミトコンドリアの中で作られるALA(5—アミノレブリン酸)は、先程の地球上に生命が誕生した時から存在しているアミノ酸で「生命の根源物質」と言われています。太古の昔から、今では動物から植物まで幅広い種に存在し、生命活動を支える重要な役割を担っています。

ALAの不思議な魅力
ー水産分野でも応用が広がるALAー

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天然の海の幸が、食べられなくなる!?
今年は静岡の桜エビ漁が、かつてないほどの不漁だったり、宮城県での水ダコの漁獲高が去年の3割程度だったり、天然の海産物の不漁が続いています。毎年このような不漁のニュースが流れますが、やはり乱獲や気候変動の影響により天然の水産資源が減っていっていることは否めません。実際、漁船による漁獲高は1980年代後半以降、頭打ち状態です。加えて、世界ではここ50年間で、海産物の消費量が5倍も増加しています。
漁獲高が頭打ちになっていて消費量が増えていているにも関わらず、海産物が流通しているのは、養殖による生産量が大幅に増加してきたからです。2013年には、ついに、養殖の生産量が漁船による漁獲生産量を上回りました。もはや世界の水産物生産の主力は漁船漁業から養殖業に移りつつあります。今後の世界の水産物需要の増加に対応していくためには、養殖産業なしには考えられません。しかし、このままの養殖生産の伸びを持続したとしても、人口増加の比率と比較すると、2030年には5000万トンぐらい足りなくなってくると予測されています。つまり、これからさらに養殖生産の技術が上がってこないと、海産物がさらに食べられなくなるのです。

人気のエビでもALAが効果的?
海産物の中でも寿司や天ぷらなどで人気のエビですが、日本では、消費量の92%を輸入に頼っています。この輸入エビの大半は養殖エビで、タイやベトナム、インドネシアなどから輸入されていますが、養殖エビの生存率は6割ほどで、4割が漁獲前に死んでしまい、さらに伝染病にかかると全滅するリスクがあります。生産性をあげるために、水質の改善を図ったり、免疫機能を回復させる薬の開発が盛んです。ALAも養殖分野で飼料としての開発が進められており、エビやシラスウナギで、酸欠や感染症の予防、生育促進などへの効果が実証され、今では水産用混合飼料として販売されています。

ALAの水産・畜産への応用

水産~畜産分野まで応用が広がるALA
人口増加や天然資源の枯渇によって、これから養殖の需要はますます増えてきます。ALAは海産物の養殖分野だけでなく、養豚、養鶏、畜産分野でも広がりを見せています。人から植物、そして動物に至るまで、これからの世界の食料事情を支える大きなファクターとなってくるのではないでしょうか。

ALAの不思議な魅力
ーALAを利用した難病治療薬の可能性ー

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ミトコンドリア病って?
細胞の中にあるミトコンドリアという小さな器官と同じ名前がついた「ミトコンドリア病」という病気をご存知ですか?これはミトコンドリアの機能が低下することで細胞の働きが悪くなって起こる病気で、心筋症、知的退行、腎不全、神経症状、脳卒中、糖尿病など様々な症状が出てきます。多くは生まれながらにしてミトコンドリアの働きを低下させるような遺伝子の変化を持っている方が発症しますが、薬の副作用などで後天的にミトコンドリアの働きが低下して起こるミトコンドリア病もあります。もともとミトコンドリアは、細胞が必要なエネルギーを生み出す働きをしていますが、ミトコンドリア病は、ミトコンドリアの働きが鈍ることでエネルギーを多く必要とする脳や筋肉などに特に症状が出やすいことから、ミトコンドリア脳症やミトコンドリア脳筋症とも呼ばれています。現在日本では難病に指定されており、2012年度の患者数はわずか1,087人と発表されています。しかし、実際にはミトコンドリアに異常を持っている方はそれ以上に多くいるものの、その中のごく一部しか患者としてカウントされておらず、中には発症しない方もいることから、潜在的に多くのミトコンドリア病患者の方がいる可能性は高いようです。その症状は様々で、体のどの部分のミトコンドリアにどのくらい異常が生じるかによって大きく異なってきます。また幼児期に発症した場合は症状の現れ方が様々なため、ミトコンドリア病という診断をされないケースもあるようです。

そもそもミトコンドリアとは?
私達の体は数多くの細胞で成り立っていますが、生きている細胞すべてにミトコンドリアが存在しています。1つの細胞に数百〜1,000以上ものミトコンドリアがあり細胞に必要なエネルギーを作り出しています。ミトコンドリアは独自のDNAを持っていて、分裂して増殖していきます。このミトコンドリアDNAが何らかの原因で異常なDNAへと変化してしまい、細胞内に異常なミトコンドリアが増殖すると細胞の機能が低下し、様々な病気の症状が現れるのではないかと考えられています。それだけにミトコンドリアの機能はとても重要な働きをしています。

耐性菌と抗菌薬の関係

ミトコンドリア病の治療薬としてALAが活躍する日が来るのか?
ミトコンドリア病自体、様々な病状があることから、症状に合わせた対症療法とミトコンドリア自体の働きを回復させる原因療法の2つのアプローチで研究が進められています。ALA(5-アミノレブリン酸)も低下したミトコンドリアの機能を改善できるということから、ミトコンドリア病に対する一つの治療薬の可能性として、2015年から医師による臨床試験が始まっています。近い将来、ミトコンドリア病で苦しんでいる多くの方々を救える治療薬になりうるのではないかと期待されています。

ALAの不思議な魅力
ーALAの特性を利用した感染治療法の可能性ー

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薬(抗生薬)は最後まで飲みきっていますか?
病院や薬局で「この薬はしっかり最後まで飲みきってくださいね」と言われたのに、症状が軽くなったので途中で飲むのを止めてしまった経験はありませんか?
薬の飲み方の実態調査で、6割以上の方が自分の判断で処方薬を中断したという結果が出ています。実は処方薬の中で抗菌薬(抗生物質)と言われる抗菌作用を持つ薬は、症状が軽くなったからといって途中で止めてしまうと、退治できるはずの菌が中途半端に残り、突然変異で抵抗力を持った菌が生まれてくる可能性があります。この菌は、本来効果のある抗生薬に対して抵抗力を持った菌になるため、きちんと治療すれば軽症で回復できた感染症が、抗生薬が効かなくなって治療がさらに難しくなる場合があります。

耐性菌と抗菌薬の関係

怖い薬剤耐性菌
これらの菌は、薬剤に対して耐性を持つことから「薬剤耐性菌」と呼ばれています。この菌は人から人へ、また、人から環境へと拡散していきますので、多くの国で抗菌薬の効かない薬剤耐性菌の増加が問題となっています。現在、薬剤耐性によって世界で年間約70万人が死亡していて、このまま何も対策を講じなければ30年後には、約1000万人が死亡すると予想されています。「薬剤耐性菌」を広がらないようにさせるためには、処方された抗菌薬は最後まできちんと飲みきること、残しておいて後で飲まないこと、人にあげたり、貰ったりしないことがとても大切です。

多剤耐性菌による感染
さらに多くの抗菌薬が効かなくなる「多剤耐性菌」という厄介な菌があります。これは、菌が一つの抗菌薬から生き延びる方法を編み出し、生き延びた菌がさらに別の抗菌薬からも生き延びてきた菌のことです。この菌に対抗するためにさらに新しい抗菌薬を開発しなければならないという菌と薬の追いかけっこになってしまいます。この「薬剤耐性菌」が健康な人に影響を及ぼすことは多くありませんが、免疫が低下した方や高齢者がこれによる感染症を発症すると治療が長引き、ときには死に至ることもあります。病院や高齢者介護施設などで多剤耐性菌による感染がよく問題になりますが、代表的なものにメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)や緑膿菌という2つの「薬剤耐性菌」が要因となって起こる感染皮膚潰瘍(かいよう)というものがあります。例えば寝たきりの入院で床ずれによって皮膚に炎症を起こし、深くえぐれてそこから感染症を併発し感染皮膚潰瘍になる場合などです。
2014年に、大阪市立大学大学院医学研究科の研究でMRSA感染皮膚潰瘍に対してALA(5-アミノレブリン酸)と光線力学療法(PDT)を用いて殺菌、創傷治癒促進効果があることを発表しました。※
2018年3月には、緑膿菌感染皮膚潰瘍に対して殺菌、創傷治癒促進効果があることを発表しました。ALA(5-アミノレブリン酸)を用いたPDTは、今までの抗菌薬を使った治療とは全く違う作用機序で殺菌し、耐性菌を作らない新たな細菌感染の治療法として今後ますます期待されています。
※大阪市立大学発行 ニュースリリース参照「耐性菌を作らない新たな緑膿菌感染治療法を開発